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中小企業のためのBCP策定とリスク管理 ~BCPの必要性や概略、策定のポイント~(クリックして開く)
アジェンダ
1.BCPとは…
(1)中小企業にとってのBCPとは…BCPにまつわる3つの誤解
一昨年の東日本大震災以降、多くの企業や自治体、団体などがBCPに対して大きな関心を持ち、対応の整備にあたっています。特に、多くの中小企業にとって大口の得意先といえる大手企業の殆どが、何らかの形でBCP整備に既に取組んでいます。
こうした中、一部の大手企業は「自社のBCP整備」だけでは事業継続の実効性を高める事ができない点を問題視し、主要な取引先に対してBCPの整備を求める、若しくはBCPの整備されている取引先に切り替える、等の動きが顕在化しつつあります。
つまり、中小企業にとってBCPとは、「将来の震災に備えた個別の経営課題」に留まらず、「大口の得意先を守る為の必須科目」となりつつある事を先ずは正しく認識する必要があります。
東日本大震災以降、BCP整備に取組む多くの企業が、次の大震災を見据えて取組みを進めています。しかし、BCPは「9.11」の際にも脚光を浴びるなど、東日本大震災の以前から存在する経営テーマです。
BCPとは、「企業の事業継続を脅かす様々な危機(ハザード)に対して、如何に対処するのかを予め検討し、対応計画としてまとめると共に、危機発生時のダメージを最小限に抑制する為に取組む予防・緩和措置」を総括した経営テーマです。
想定される危機の中には、外部要因(つまり、震災や水害などの天災と、テロや戦争などの人災の両方)のみならず、内部要因(特に、製品事故や重大なコンプライアンス違反といった不祥事など)の双方が含まれています。
実際、BCP整備に多額の投資やコストを費やすケースは少なくありません。こうしたケースの多くは、「危機発生時のダメージを最小限に抑制する事」を狙いとしています。
ただし、BCPには、他のコンプライアンス対応の様に「どこまで対応できていればOK」といった基準は存在しません。むしろ、「自らが対応し得る基準(ゴール)を設け、中長期的に徐々に活動レベルを高めていく事」が、ISO22301等でも求められています。
また、実際に危機が発生した際、真っ先に求められるのは「正しい情報の把握と適切な説明」(クライシス・コミュニケーション)です。従って、先ずは社内ルールを整備し、「正しい情報を把握し、説明できる体制」を整えるが先決です。被害を緩和する為の物理的な投資は、各社の実情に応じて、その後に中長期的な視点にたって取組む事こそがBCP整備の本質です。
(2)事業継続ガイドライン(内閣府)
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略で、事業継続計画を意味します。
先の大震災以降、いずれ発生すると考えられている首都直下型地震や南海トラフ地震(3連動地震)への対応を見据えて、上場・未上場を問わず多くの企業が、自社のBCPの策定や見直しに取組んでいます。
また最近では、仕入先からの部品供給体制の確保等、「サプライチェーンの事業(業務)継続」を意図した顧客企業からの要請を受けて、取組む企業も少なくありません。
加えて、大震災以降、投資家(特に海外の機関投資家)から、事業継続の観点で日本特有の自然災害リスクにあたる地震対策の説明を求められる機会が増えている事も、企業がBCP整備に取組む要因のひとつとなっています。
- 事業継続の取組みとは
事業継続ガイドライン 第2版(内閣府/2009年)より抜粋
- 企業は、災害や事故で被害を受けても、取引先等の利害関係者から、重要業務が中断しないこと、中断しても可能な限り短い期間で再開することが望まれている。また、事業継続は企業自らにとっても、重要業務中断に伴う顧客の他社への流出、マーケットシェアの低下、企業評価の低下などから企業を守る経営レベルの戦略的課題と位置づけられる。
- この事業継続を追求する計画を「事業継続計画」(BCP:Business ContinuityPlan)と呼び、内容としては、バックアップのシステムやオフィスの確保、即応した要員の確保、迅速な安否確認などが典型である。それらは、事業内容や企業規模に応じた取組みでよく、多額の出費を伴わずとも一定の対応は可能なことから、すべての企業に相応した取組みが望まれている。
(3)中小企業庁
【中小企業庁ホームページ】抜粋
東日本大震災(平成23年3月11日発生)において、
中小企業の多くが、貴重な人材を失ったり、設備を失ったことで、廃業に追い込まれました。
また、被災の影響が少なかった企業においても、復旧が遅れ自社の製品・サービスが供給できず、
その結果顧客が離れ、事業を縮小し従業員を解雇しなければならないケースも見受けられました。
このように緊急事態はいつ発生するかわかりません。
BCPとは、こうした緊急事態への備えのことをいいます。
ただし、突発的な緊急事態がBCPの想定どおりに発生するはずもありません。
また、BCPを策定していても、普段行っていないことを緊急時に行う事は、実際には難しいものです。
緊急事態において的確な決断を下すためには、あらかじめ対処の方策について検討を重ね、日頃から継続的に訓練しておくことが必要なのです。
中小企業庁のHPには、「中小企業BCP策定運用指針」として、様々な参考情報が掲載されています。
興味を持たれた方は是非一度、アクセスしてみて下さい。
(4)BCPと災害対策マニュアルの違い
災害対策マニュアル | BCP | |
---|---|---|
目的 | 人命安全、建物等の資産保全 ~初動を中心に従業員の生命を守る | 優先事業の継続・復旧 ~いかに早期に事業を再開するか |
検討項目(作成資料)の違い | 1.想定事象の設定 2.- 3.- 4.ハザードマップ作成 5.危機管理体制図 6.- 7.現地の判断事項の一覧 8.ファシリティ一覧(必要な備品消耗品に限る) 9.- 10.緊急連絡網 | 1.想定事象の設定 2.復旧目標と目標スケジュール 3.優先事業の設定 4.ハザードマップ作成 5.危機管理体制図 6.重要顧客の選定 7.現地の判断事項の一覧(自宅待機の可否判断等の勤怠管理を含む) 8.ファシリティ一覧(左記に加え事業を継続するために必要な備品・消耗品を追加) 9.ボトルネックと対策表 10.緊急連絡網 |
BCPの特徴 | 1.災害後に活用できる資源に制限があると認識し、継続すべき重要業務の絞り込みを行う。 2.重要業務のそれぞれについて目標復旧時間を設定する。 3.重要業務の継続に不可欠で、再調達や復旧に時間や手間がかかり、復旧の制約となりかねない重要な要素・資源(ボトルネック)を洗い出し、それらに重点的に対処する。 |
【参考】BCPを巡る行政機関と大手企業の動き(例)
多くの大手企業では、「甚大な震災が発生した後、速やかに事業活動を再開する」事を目的に、BCPの整備を進めています。
特に、ヘルスケア(医療・薬品業界)や食料品、日用品、建設などの業界では、企業の枠組みを超えて、サプライチェーン全体で震災対応BCPの整備に取組む動きが出始めています。
2.BCP整備のメリット
(1)巨大地震が発生すると…
BCP整備メリットの説明にあたり、先ずは
巨大地震(南海トラフ巨大地震=危機)が発生した際に、どういった状況に陥るのか?
をイメージして頂きたいと思います。
今年(2013年)8月に大阪府防災会議が発表した、「南海トラフ巨大地震に伴う府下の津波浸水被害」(想定)です。
- JR大阪駅周辺の梅田は、最大2メートル浸水(多賀城市と同規模)
- 関西国際空港は、最大3メートル浸水(仙台空港と同規模)
- 府下の浸水面積は、約1万1072ヘクタール(昨年8月の内閣府公表値の約3.6倍)
- 津波以外にも、震度6~7の揺れ、火災などの発生が予想される。
(吹田市の企業の場合)
津波被害を免れる事ができたとしても…
- 揺れや火災による施設や設備の損壊
- 従業員や取引先の甚大な被災(津波等)
- インフラの停止
- 食料、燃料の不足、など
の経営環境に陥る可能性がある。
【参考】首都直下型地震で想定される被害状況(概略)
項目 | 想定内容(東京都の推定等) | 出所や影響など、補足事項 |
---|---|---|
地震規模 | M7.3~8.2の地震により、都心で最大、震度7(東京都の推定) | 全損、半壊、一部破損の建物や設備の多くで甚大な被害が見込まれる。 |
建物被害 | 約30万棟超 | うち、火災による焼失が20万棟以上、見込まれる。(東京都の推定) |
帰宅難民 | 約517万人(東京都の推定) | 他社では震災翌日の出社率を20~30%と想定し ているケースが多い。 |
道路被害 | 高速道路 約10% 一般道路 約9%が損壊 | 応急措置を講じても、救助や緊急物資の輸送以外に使えない程度の被害を受ける道路を指す。(東京都の推定) |
インフラ施設 の損壊(1) | 損壊 送電施設 約17% 通信施設 約7% ガス管 約85% | 東日本大震災では、送電・通信施設は1週間で約8割が復旧。ただし、ガス管等は復旧に1か月以上の長期を要する事が多い。 |
インフラ施設 の損壊(2) | 上水道(水道管)の45%、 下水道の23%が損壊 | 水道管の復旧には長期を要する。 (東日本大震災の場合、ガス管と同様に1か月以上の復旧期間を要する)深刻な水不足により、ミネラル・ウォータの需要が、全国の生産量を上回る試算も一部にある。 |
立入制限 | 環状7号線の内側 | 震度6弱以上であれば、同地区の立入を制限する可能性がある。(警視庁) |
湾岸地区の被害 | バース(岸壁)全体の約75%が 損壊。 浮き屋根式タンクの10%超で原油の流出と火災が発生 | 濱田教授(早大)の試算。 東京湾岸は、東京電力の火力発電の 約50%を担う事から、原油・電力が長期に渡り不足する事態も懸念される |
(2)事業再開と復旧完了までに要する時間と事業レベル
インシデント(震災など)が発生した場合、BCPの整備有無で
再開(スタート)、復旧完了(ゴール)の何れをとっても、
時間・水準ともに結果は大きく異なる
(3)緊急事態にBCPの有無がもたらす差~BCPガイド(中小企業庁)より~
【ケース1】製造業(金属プレスメーカー)
BCP導入なしの企業 | BCP導入済の企業 | |
---|---|---|
想定 | 平日早朝に大規模地震が突発的に発生 | 平日早朝に大規模地震が突発的に発生 |
当日 | ・工場では全てのプレス機が転倒 ・ほとんどの従業員の安否確認ができず ・納品先の連絡策が不明。判明後も電話不通 | ・アンカー固定済みの為、プレス機は点灯せず ・伝言ダイヤル171を活用し、従業員の安否を確認 ・納品先の最寄の営業所まで事情説明に訪問 |
数日間 | ・多くの従業員が、1ヶ月間出社せず。 ・原材料の仕入先工場が前回 ・1週間後、納品先(大手企業)から発注を他社に切り替えたとの連絡があり | ・従業員は3日間、地域活動に従事した後、交代制で業務に復帰 ・原材料は当面、他企業から代替調達 ・3日後、「1ヶ月で全面復旧可能」である旨、納品先に報告 |
数ヶ月後 | ・3ヶ月後、設備は復旧するも、受注は戻らず ・会社規模が縮小、従業員の7割を解雇 【事業が大幅に縮小】 | ・手持ち資金から給与や仕入代金を支払い ・同業組合から、復旧要員の応援を受ける ・修理費用は、公的融資制度を活用 ・1ヶ月後、全面復旧し、受注も元に戻る |
【ケース2】建設業(小型ビル建設の工務店)
BCP導入なしの企業 | BCP導入済の企業 | |
---|---|---|
想定 | 平日早朝に大規模地震が発生 | 平日早朝に大規模地震が発生 |
当日 | ・古い事務所の柱にひび ・社長の自宅半壊、避難所生活 ・ほとんどの従業員の安否を確認できず | ・社長の自宅は耐震補強済み ・伝言ダイヤル171を活用し、従業員の安否を確認 ・出社してきた従業員と会社近くで、けが人の救出、テント設営などに協力 |
数日間 | ・元請会社、孫請会社と連絡がとれず ・大半の従業員が、1ヶ月出社せず ・組合が市役所と災害時協力協定を締結。これに伴い、応急対策工事の要請があるが対応できず。 | ・元請会社などと連絡が取れる。 ・各工事現場の確認を従業員がバイク等で手分けして行う ・プレハブ倉庫を臨時の連絡拠点として活用 ・従業員が交代制で勤務。 ・応急対策工事の要請に多数、対応。 |
数ヶ月後 | ・復旧工事の引き合いがあるが、手持ち現金がないため、 臨時作業員を集める事ができず ・事業再建の目処が立たず、当面の間、従業員を解雇し、休業となる。 【最悪の場合、そのまま廃業】 | ・手持ち資金から従業員と臨時作業員の給与、資材の支払いを行う。 ・組合内で応援要員、建設機械などの相互融通を行う。 ・災害復旧工事等の業務を着実に受注し、業績も急回復 |
【ケース3】小売業(小規模食品スーパー)
BCP導入なしの企業 | BCP導入済の企業 | |
---|---|---|
想定 | 平日早朝に大規模地震が突発的に発生 | 平日早朝に大規模地震が突発的に発生 |
当日 | ・建物は無事だが、棚が倒れ商品が散乱 ・店主の自宅が半壊。家族と避難所生活 ・従業員、パート店員の安否が確認できず | ・棚を固定済みであった為、商品の散乱は小規模に留まる ・店主の自宅も耐震補強済みであった為、無事 ・従業員など、スーパーに安否の張り紙 |
数日間 | ・店内整理が手付かず ・停電で生鮮食品が腐敗 ・従業員、パート店員とは電話連絡のみ | ・翌日、ボランティアの援助をうけて、店内整理に着手 ・在庫食料品を避難所に運び、無料提供 ・1週間は物流がストップ。駐車場にテントを張り、緊急物資の配給拠点として提供 ・1週間後、電気が通じ、自宅に戻った住民を相手に、仮営 業を開始 |
数ヶ月後 | ・1ヶ月後、金融機関の借入で自宅を修理 ・スーパーの営業再開の目処はたたず ・従業員やパート店員を一時解雇 【事業が大幅に縮小】 | ・手持ち資金から従業員やパート店員の給与を支払い ・設備修理と商品仕入れの資金借り入れ ・1ヶ月後、本格営業開始 |
(4)緊急事態が発生しなくても得られるメリット
得意先との信頼関係の強化
冒頭でも説明の通り、中小企業の有力な得意先にあたる「大手企業」の多くでは、既にBCP整備に取組む企業が大多数を占めています。
直近のインターリスク総研による調査(2012年11月~12月)では、国内上場企業の約70%が、BCPを既に作成済、もしくは作成中と回答。
さらに、11%強の企業が今後、作成計画があると回答しています。
しかも、これらの企業の約90%が、「取引先でもBCPを持つ必要がある」と回答しています。
実際、最近ではIT業界や物流業界、食品業界などあらゆる業界で、コスト優位性の高い既存の取引先(中小業者)から、BCPの実効性を備えた取引先に、取引先を切り替える動きも出始めています。
従って、こうした経営環境の変化を踏まえ、自社のBCP整備を通じて、取引先との信頼関係を強化し、重要な得意先を守る事が、多くの中小企業にとって急務だと、いえます。
経営基盤の強化
BCPでは先ず、『自社の重要な得意先と優先事業』を改めて考え直す事が求められます。
こうした「改めて考え直す機会」を通じて、「自社の強みや弱み、コアコンピタンス」を再確認(再認識)する事は、円安やインフレ等の最近の経営環境の変化を乗り切る為にも、欠かす事ができません。
加えて、多くの中小企業が抱える「後継者問題」の観点からも、自社の強みやコアコンピタンスを改めて再確認する事が不可欠といえます。
他方、BCPを整備する過程で、「従業員の多能工化」を進め、特定の社員による業務のブラックボックス化を無くす事が欠かせません。(例えば、現場も営業や事務を知り、営業も現場を知る、など)
こうした取組みは、固定観念を改めて見直し、業務の改善に結びつく事も多く、
更に従業員の意識改革も促すなど、経営基盤の強化を図るうえで大きな効果が見込める、といえます。
3.BCP策定の進め方
(1)先ずは自社の現状を知る事から…
震災時に、特に重要となる経営資源などが、初めの現状確認の対象となります。
- 従業員
安全確保と連絡体制の確立 - 重要な施設や設備、調達先
被害軽減の予防措置と代替手段の検討先ずは、たな卸しから… - 資金(キャッシュフロー)
一定期間、事業が停止した際の余力の確保保険や災害復旧の為の融資制度への準備 - データ、情報、IT
業務データや得意先情報のバックアップIT機器が使えない時の備え - 社内の体制
社長不在時の体制同業他社や取引先との相互支援体制
(2)BCP策定・運用の全体シナリオ
マニュアルの作成や震災被害を緩和する為の投資・対策だけが、BCP対応ではありません。
むしろ、上記にまとめた「BCP策定・運用サイクル」に沿って、順次対応する事が重要です。
- BCPの策定(整備)
- まずは、将来の震災に備えて、優先事業や復旧目標の設定、対応事項などをまとめます。(BCPの策定)
- また、必要に応じて震災被害を緩和する為の措置(3つの対策)を検討・実行します。
- 従業員(関係者)への説明・啓蒙
- 次に、実行した対策や、震災発生時の対応事項を従業員や関係者に説明します。特に、経営者の言葉で、繰り返し必要性や内容を説明する事が重要です。
- 業務情報の共有
- 得意先の情報(連絡先)や特定者しか知らない業務手順などを文書化し、社内で共有する事が重要です。
- 特に、中小企業の場合、社長の不在時や負傷時に、会社が全くの機能不能に陥らない様にするには、必要な情報を社内で共有する事が欠かせません。
- 模擬訓練の実施
- 社内のBCP文化の定着と合わせて、取組んだ対策や対応事項等のまとめた内容が機能するかを検証する為に模擬訓練を実施します
(3)震災時を想定して優先事業と復旧目標を決める
優先すべき得意先や製品は何ですか?
- 売上や中断時の損失の大きい得意先や製品・サービスは何ですか?
- 競争の激しい(震災後の受注回復が難しい)製品・サービスは何ですか?
- 他の得意先にも大きな影響を及ぼす得意先はありますか?
- 事業停止が得意先に大きな迷惑をかける製品・サービスはありますか?
- 社会的に、いち早く復旧しなければならない製品・サービスはありますか?
優先事業の再開目標(時期と事業レベル)は…?
- 得意先の意向(再開希望の時期)はどうなっていますか?
- 得意先は、「何時までなら、“在庫”や“代替品”で乗り切れる」と考えていますか?
- 行政や業界団体からの緊急要請は考えられますか?
- いつ迄に製品供給やサービスを再開すれば、競合他社の本格的な浸食を防ぐ事ができると思われますか?
- 先ず優先すべき得意先には平時、どの程度の製品を供給にしていますか?
(4)優先事業には「何が必要か」を整理する
必要な経営資源をリストアップするには、先ず優先事業を構成する業務を選定し、選定後に各業務において必要な資源を検討する手順で検討を進めます。
優先事業に必要な業務 | 優先事業への影響 | 業務に必要な人材 | 業務に必要な設備・モノ | 業務に必要な情報 |
---|---|---|---|---|
吹田食品(大阪工場)との生産計画調整 | 大 | 営業担当者(1名) | 電話、FAX 生産管理用PC | 生産計画データ |
大阪科学からの原反シート(原材料)の調達 | 小 (1ヶ月分の在庫あり) | 調達担当者(1名) 物流業者 | 電話、FAX 調達管理用PC 調達資金 | 購買データ |
容器の製造 | 大 | 生産担当者(4名) | 成形機、裁断機 | 各製造機器の設定データ |
吹田食品(大阪工場)への○○製品用容器の納入 | 中 (1週間毎に出荷要) | 出荷担当者(1名) 輸送担当者(1名) | フォークリフト 輸送用トラック、軽油 | |
… | … | |||
(全業務共通) | 大 | 工場、電力、工業用水、生活用水 |
(5)必要資源の調達方法を考える
次に、前工程でリストアップした必要な経営資源について、代替やバックアップを含めて震災時の調達方法を検討します。
バックアップ対策 | ・データのバックアップ ・代替調達先(代替品)の検討 ・臨時とする拠点の準備、など |
サプライチェーン対策 | ・得意先との在庫量の調整 ・得意先へ出向しての業務継続 ・同業他社との相互支援協定 ・仕入先の多様化、など |
ボトルネック対策 | ・耐震化、転倒防止など要望措置 ・在庫量、貯蔵量の見直し、など |
【参考】データを保全する為の手段(BCPに関するIT対策例)
して生む対策のテーマ | 対応状況※ | 具体的な対策(例) |
---|---|---|
外部のデータセンターの活用 | 74.0% | ・免震、発電機等を備えた外部のデータセンターにサーバーを移設(ホスティング) ・移設先とSLAの締結(による早期サポート体制の確立) |
ネットワークの多重化 | 65.3% | ・サーバー間のネットワークの多重化 ・社内LANの多重化 ・衛星電話回線によるデータ通信のバックアップ体制の構築 |
バックアップセンターの準備 | 61.5% | ・緊急時にデータを移して業務(処理)を継続する為のバックアップ用システムの構築 ・稼働システムのバックアップ・データを定期的にバックアップ・センターに送付する運用の実施 |
クラウド・コンピューティングへの転換 | 51.3% | ・メール、WEB、掲示板などの情報系に加えて、営業管理(CRMやSFA)、人事総務管理などでのクラウド(SaaS)の導入(掲載した業務での導入が最も進んでいる) ・PaaSなど、社外のプラットフォームの活用。 (サービス提供会社のデータセンターが国外やハザードに強い地域にある場合も多い) |
自家発電設備の設置、または増設 | 40.5% | ・自社のセンターやユーザー部門の拠点の停電リスクに備えた発電機の設置 ・同様に、発電機まで設置(常設)しない場合でも、発電機の引込み設備の増設 |
データセンターの移転(場所の変更) | 39.5% | ・想定される被害の小さい立地条件の場所への移転 ・既存センターへの制震・免震補強や発電機の設置等の諸対策 |
在宅勤務の実施・拡大(危機発生時の環境整備) | 39.0% | ・在宅勤務への対応を見越した以下のソリューション等の導入 1)データ管理機能をもつグループウェアの導入 2)ワークフローシステムの導入 |
その他 | - | ・従業員・家族向け緊急ポータルサイトの準備 ・バックアップ拠点での要員受け入れに伴う予備PCの導入、業務環境の構築 ・業務データのサーバー一元管理の推進 |
(6)発災後の数日に「なすべき事」をリストアップする
最後に、これまでの検討内容を踏まえ、初動~事業再開までの対応事項を、担当・対応時期と合わせて、チェック・リスト化します。
従業員に対して | ・安否/所在の確認 ・出社可否の確認 。出社時期、場所の指示 ・担当業務の指示 ・OB/OGへの支援要請、など |
得意先に対して | ・緊急時連絡先の確認 ・第一報の報告 ・生産調整などの各種調整 ・当社社員の得意先への派遣 ・復旧(事業再開)時期の確認、など |
仕入先・委託先に対して | ・出荷可否の確認 ・代替調達先/代替品の手配 ・委託先(物流等)の可否確認、など |
設備被害に対して | ・被害程度の外見確認 ・専門業者への診断依頼 ・部品の調達/修復機関の確認、など |
同業他社に対して | ・得意先への代行納入の要請 ・設備/部材などの貸借依頼 ・支援要員の派遣依頼、など |
金融機関などに対して | ・修繕資金の借り入れ ・助成金の申請 ・緊急借入の借り替え、など |
【参考】災害時の通信手段比較
(7)作りっぱなし厳禁!!訓練まで“シッカリ”やり遂げる
策定したBCPは、従業員(関係者)への説明、業務情報の共有化を進めた後、模擬訓練を実施する事が欠かせません。
【訓練の目的】
・策定したBCPの現実性の検証
・各社員んがとるべき行動の確認
・BCP意識の定着化(社員の意識醸成)
実働訓練 | ・初動の安否確認、帰宅訓練 ・平時の担当業務と異なる業務の実践 ・データのバックアップ訓練、など |
ロールプレイ | 被害想定に基づく、 ・従業員への出動/自宅待機指示 ・得意先との調整と生産計画変更、など |
読み合わせ |
【参考】大手企業の危機管理体制の基本的な考え方
危機管理体制の基本的な考え方
- 対策本部は被災地以外に設置し、非被災地の支店や拠点等も管轄する。
同本部では、社内の情報のとりまとめや社外の関係機関との調整なども担う。 - 対策本部を含む非被災地の組織は、主に以下を担う。
- 被災地への経営資源(ヒトや設備・商材等)の拠出
- 被災地の業務の代替
※当然、通常業務も平行して運営する。
- 現地対策本部は主に以下を担う。
- 復旧目標に向けた現地での判断
- 対策本部へのバックアップの要請
- 優先復旧拠点の復旧状況の統括(とりまとめ)
- 被災地内での経営資源(ヒト等)の配分、など
- 優先復旧拠点は、「BCPに定める復旧目標に向けて、他の拠点に優先して事業を再開すべき拠点」と位置付ける。
従って、被災地内では経営資源(ヒトや設備等)を、優先復旧拠点に重点配分する。 - 被災拠点は、「BCPの復旧目標」を達成する上では、事業再開が優先されない拠点。
※社屋の全損など被害が甚大で復旧のメドが立たない拠点や、復旧目標で定める商材や取引先との関係が希薄な拠点など
CIOパートナーズ株式会社
代表取締役 吉田明弘